デコボコントローラ!

ナマケモノな未来の「自分」に打ち勝つための備忘録。

どうやって洗濯したら汚れが落ちるんだろう?

前回、こんな記事を書きました。

www.dekobo-controller.com

ここでは、洗たくマグちゃんの措置命令について、消費者庁の判断は妥当だったが、コンセプトがいいので合理的根拠が出るといいですね、と締めました。

私は主観的感想(SNSの意見)よりは調査結果(消費者庁)を信用するというありきたりな思想を持っているので、消費者庁の発信する情報を妄信している自覚があります。

消費者庁がおいていった措置命令を隅々まで舐めるように読み返しました(読んでる時が一番楽しかったです)。ただ、どう読んでも優良誤認――「大げさに言うと勘違いする人がいるかもしれないから、パッケージや広告を変更してね」という指摘の域を出ることはなく、要するに「根拠が弱い」としか読み取れず、かといって効果を否定しているわけでもありません。

そのため、効果については当たり障りのない無難なオチを付けました(空気除菌よりは悪影響ないかなと思いますし)

 

ただ、この件を調べていて、根本的な部分に興味が湧きました。

それは、「どうやって洗濯したら汚れが落ちるんだろう?」ということでした。洗濯というものに対して、純粋に興味が湧きました。

 

 

前提

まず、私は「衣類の汚れ」が具体的に何を指しているのか知りませんでした。「衣類の汚れ」を落とすのに何が必要なのかも、何をもって『洗浄力』と呼ばれているのかも分かりませんでした。

なので、「アルカリ性の水は汚れを落とす」と言われても、科学的見解なのか、事実無根のホラなのか、私には判断がつかない状態でした。

「なんでアルカリ性の水で汚れが落ちるの? ムリなのでは?」というぼんやりとした疑問はありましたが、科学や数学や物理学といったものは「常識的に考えてありえない」と感覚で否定するような概念さえ証明してしまうロマンにあふれた学問です。このような学問は、人間の想像力が極めて乏しいうえにどれだけ短絡的であるかを教えてくれます。襟を正す思いで一つひとつの物事に向き合えるという意味では、とても知的な学問だと思います。

 

少し話が逸れましたが、私(人間)の感覚がアテにならない以上、感覚的に判断することにある種の防衛反応が働くのは仕方のないことで、「どっちつかず」は、リスクを避けたい無知者に唯一許された選択肢です。

これほどさかしらな能弁、せせこましい生き方を身に付けるほどには知識が足りない自覚があったので、今回は無知から逃げずに『洗濯』について真剣に調べ、自分なりに「洗濯のやり方」を確立しようと思い至りました。

 

洗剤の知識をざっくりと入れておく

難しい知識を頭に入れるときには、まず絵本レベルのものから始めるのが定石です。できるだけ分かりやすくかみ砕いていて、かつ信用できそうな情報源をいくつか当たりました。

洗剤が油汚れを落とす理由

飲み物を売ってるサントリーが「なぜ洗剤を使うと、油汚れが水で落ちるのか?」というページを公開 *1 しています。

サントリーは洗剤を売ってない……はずなので、これは中立的な意見ではないでしょうか(「軟水で洗ってね」と言い出したらちょっとだけ疑いますけど)

水は、油汚れのついていない部分には素早く浸透していきますが、汚れの部分に対してはなかなかしみ込みません。界面活性剤によって水の表面張力が弱められると、衣服は水にぬれやすい状態になり、水が汚れを落とすための環境が整えられます。
次に界面活性剤の疎水基が油汚れの表面を囲みます。同時に親水基は外に向かって並びます。そして疎水基が油汚れ全体を完全に取り囲むと、その外側は完全に親水基でおおわれる形になります。親水基をもつ物質であれば、水の溶解力は存分に発揮されます。水は、親水性のかたまりとなった油汚れを衣服からはがし、水の中に取り込んで、汚れを落とすのです。
https://www.suntory.co.jp/eco/teigen/jiten/science/02/

(太字は後付けしました)

どうやら界面活性剤が一役買っているようです。界面活性剤も名前と性質は知っていますけど、なぜ汚れを落とすのかについては具体的には知りませんでした。

 

日本石鹸洗剤工業会が解説しているページ *2 もありました。

界面活性剤の分子構造は独特で、分子内に水になじむ親水基の部分と、油になじむ親油基(疎水基)の部分を併せ持っていることが特徴です

https://jsda.org/w/03_shiki/osentakunokagaku_2.html

 

石けん百科株式会社という石鹸会社も言及 *3 しています。

洗うためには、まず洗浄液で洗うものをぬらさなければいけません。 界面活性剤は表面張力を低下させるので、ものがぬれやすくなります。

洗うものが良く濡れたら、次に、汚れをものから引き離し、水中に浮かべて、 再付着しないようにすることが必要です。 界面活性剤は汚れの表面に吸着して、汚れと水との間の表面張力を小さくするので、汚れがものからはがれて水の中に浮き上がろうとします。 (この現象をローリングアップといいます。) そして、もんだりこすったりする機械力も手伝って、汚れが水中に浮き上がると、乳化分散可溶化というはたらきによって水の中に安定に浮かび、 汚れの表面と洗うものの表面はどちらも界面活性剤の分子に覆われるので、再付着しにくくなるのです。

https://www.live-science.com/honkan/theory/surfac05.html#body

(太字は後付けしました)

 

ちなみに石けん百科株式会社ナチュラルクリーニング洗剤の普及・啓蒙活動を行っている石鹸会社 *4 らしく、「ニセ科学と石けんの諸問題」というサイトも運営しています。

このサイトには、重曹やアルカリ剤を利用したナチュラルクリーニングを啓蒙しつつも、それらでは対応できない汚れがあることを認めるような記事もあれば、界面活性剤への偏見と理解不足について丁寧に解説している記事もあります。

あくまで科学的に、社会的責任を負う企業のひとつとして洗剤と向き合っている会社…という印象です。 

 

上記の情報から、界面活性剤は以下のような性質を持っていることが分かります。

  • ものを濡れやすくする(水の表面張力を低下させるため)
  • 汚れと水の表面張力を弱めることで、汚れを浮き上がらせる
  • 界面活性剤の「疎水基(親油基)」が油汚れになじもうとし、「親水基」が油汚れの外側に並ぶ
  • 外側に並んだ「親水基」が水に引っ張られて繊維からはがれる(乳化・分散作用)

これはローリングアップ現象と呼ばれているそうです。

 

論文を読む

洗剤(界面活性剤)についてはざっくり分かったので、次にJ-Stageでフリーな論文を読み漁りました。査読されているものをピックアップした…と思います。古いものから並べます。

 

■洗浄の科学 : 洗浄と洗浄剤(2001年)

「洗浄」に関する基礎知識がずらりと載っていて *5、読んでいてワクワクする内容でした。中でも興味深かった部分をいくつか。

汚れの除去機構
  1. 界面活性作用(界面活性剤の吸着・浸透・乳化・分散・液晶形成・可溶化・ローリングアップなど)
  2. 界面電気現象(汚れと固形表面との電気的吸引や反発など)
  3. 機械作用(振盟・撹拝などの機械力)
  4. 酵素・酸・アルカリなどによる汚れの分解

より効果的な洗浄のためには、洗浄の条件に配慮することが大切。例えば、洗剤の成分だったり、洗浄液の濃度、温度、洗浄時間、浴比(洗濯物の重量と洗濯液の液量との比)など。

衣料用洗剤の洗浄力の評価法
  • バンドルテスト:実生活に最も近い評価方法(アメリカのASTMで標準化)。
    決められた衣料品2組を着用し、1組をある洗剤で、もう1組を別の洗剤で、洗濯機を使って洗浄する。3人が視感判定を行い、統計処理して総合評価をする。
  • 汚染布を用いる方法:実際の衣料品ではなく、小さな汚染布を使って行う。
    天然汚垢布:顔垢・衿垢などの汚れを付着させた汚染布。衣料用合成洗剤の洗浄力試験法(JISK3371)で用いられる。
    人工汚染布:一定組成のモデル汚れ成分を付着させた汚染布。多量の汚染布を一度に調整可能。日本では1種類のみ(湿式汚染布/洗濯科学協会)だが、海外では多くの汚染布が発売されている(EMPA、Krefeld等)。

 

■洗浄のメカニズム(2008年)

洗浄性評価をメインテーマの一つとしている研究者の論文 *6 です。

そもそも洗浄には

  • 分離型洗浄(界面活性剤などで汚れを分離させる)
  • 溶解型洗浄(水や酸やアルカリを用いて汚れを溶かす)
  • 分解型洗浄(強力な薬品や紫外線で汚れを分解する)

という3種類があり、この中では界面活性剤を使った分離型洗浄がもっとも洗浄効率が悪いそうです。

じゃあどうして分離型洗浄が一般的かというと、これが一番衣類へのダメージが少ない洗濯方法だからです。衣類はデリケートなので、一般家庭では洗浄効率が悪くても界面活性剤を使っているんですね。

でも汚れや界面活性剤が残留しやすいので産業洗浄では使われませんし、皮膚が弱いと肌トラブルにつながってしまう。悩ましいところです。

つけおきをしたら汚れが落ちやすくなるのは、溶解型洗浄と組み合わせる形になるからでしょうか。

 

アルカリ剤が油汚れを「中和」させる説はどこから来たのか?

ここではアルカリ剤がどうして分離型洗浄できるのかについても言及しています。アルカリ剤は、洗濯物の基質と汚れの負の表面電位を高めて、静電気反発力を増大して……

私はこれを見たとき「エッ!?」という声がリアルに出て二度見してしまいました。Webに転がっている多くの記事では「アルカリ剤が汚れを落とすのは、油汚れや皮脂汚れが酸性だから。中和して落とす」といった表現を何度も何度も目にしていたからです。

……もっとも、よく考えればpH(ペーハー)は溶液中の水素イオン指数を計るものなので、ぜんぜん水に溶けない油に対して酸性・アルカリ性と当てはめるのはちょっと変ですね。ひょっとすると、脂肪酸を「酸性」と誤認してしまったのかもしれません。

除菌・臭気物の洗浄には気体状オゾンでの処理も効果的って書いてありますし、前述した「洗浄の科学 : 洗浄と洗浄剤(2001年)」では、汚れの除去機構のなかにちゃっかり「酸」が含まれていたので、アルカリだからOKじゃなくて、あくまで汚れの種類に合わせて使うのがいいわけですね。

ただ、溶解型洗浄としてアルカリ剤(弱アルカリ液)を見た場合、脂肪酸汚れをアルカリ剤で処理すると石けんになって溶解し、その石けんが洗浄効果にプラスされるので、炭酸水素ナトリウムを使った弱アルカリ性でもある程度は汚れが落ちるそうです。

弱いアルカリ剤でも、ある程度なら油汚れや皮脂汚れを落とせるし、特にたんぱく質汚れに強いということが分かりました。

■衣料用洗剤の洗浄性能(2008年)

ライオン株式会社ファブリックケア研究所の方の論文 *7 です。

これまでに見てきた内容の集大成といった感じですが、特に興味深かったセクションは「部屋干し」のニオイに言及したもの。

室内干し臭抑制技術

洗濯物を室内に干した場合には、乾燥までに時間がかかってしまうために、衣服から生乾きのニオイがしてしまうのは課題の一つですね。そこで、「生臭い」「徽臭い」「酸っぱい」「雑巾臭い」などさまざまな表現で語られる部屋干し由来のニオイを解析し、発生原因と臭気抑制対策を検討したそうです。

部屋干し時の特徴的なニオイの正体は、平たく言えば脂肪酸の混合物。また、こういった、衣類が高湿度下に長時間おかれると、衣服にたまった汚れに含まれる皮脂・タンパク質が自然酸化や皮膚常在菌等の代謝によって次第に分解されるためにニオイが生成されるのでは…という考察を展開しています。

ではどうすればよいのかというと、実はこの論文では「酵素(とある洗剤用プロテアーゼ)に明確な抑臭効果が認められている」としか記載がなかったので、別途調べました。おそらく、部屋干し用洗剤にはこの酵素が入っていて、部屋干し特有のニオイ抑制に貢献しているのだと思われます。

日常生活における洗濯衣料の部屋干し臭とその抑制 *8」という別の論文を読んだところ、まずは菌と汚れを落とすところが部屋干しのニオイを抑制するために重要なので、着たらさっさと洗うことが大切ということが分かりました。

 

余談ですが、洗剤メーカーの方が、部屋干し洗剤用としてユーザー層に合わせた香料開発に真剣に取り組んでいる姿勢も垣間見れて、当然ですが適当に香り付けてるだけじゃないんだな……というのも具体的にイメージできて感慨深い。

部屋干しの研究の成果として2001年に開発されたのが「部屋干しトップ」らしく、予期せず部屋干しトップの開発秘話ドキュメンタリーを覗いてしまったような気持ちになってドキドキしました。論文もれっきとしたノンフィクションの読み物であることをこんなところで気づかされるとは思いもよりませんでした。

 

■アルカリ電解水を用いた新規つけおき洗浄システムに関する研究(2020年)

アルカリ電解水に着目した洗浄システムの開発を行っている論文 *9 です。

洗剤は確かに洗浄力があるものの、界面活性剤は環境負荷が指摘されており、残留洗剤の影響でアトピーの発症も報告されています[※]

ただ、アトピーは洗剤を使用しない電解水洗浄型洗濯機を使うと症状が改善されるといった報告[※]もあるそうです。

炭酸ナトリウムセスキ炭酸ナトリウム水溶液は、一般洗剤と比較して同等の洗浄性を有していることが報告されている[※]とのこと。

驚いたのが、本洗い前につけおき洗いをすると、市販洗剤の使用量を半減させても、標準使用量と同程度かそれ以上の洗浄効果が得られることも報告されている[※]ようです。

なお、この実験で分かったのは、「洗浄温度」「すすぎ工程の浴比(洗濯物の重量と洗濯液の液量との比)」「機械力」が、汚れを取り除く上で重要な要素であることです。

  • 特殊電解還元水(ERW)を用いた本洗い前に「つけおき」をすると洗浄率が向上
  • 洗浄温度が高くなるにつれて洗浄率が向上

つけおきをすると洗浄時間は長くなるものの、服のダメージを抑えつつ洗浄できるシステムだと判断ができる、という結論を出しています。

[※]…論文内で引用元の記載あり

 

マグネシウム洗濯ではアルカリ性の水にするために「つけおき」を推奨しているのですが、これは確かに…マグネシウム洗濯の効果を実証するのは難しそうですね。

サントリーが「水はものを溶かす天才」と表現しましたが本当にその通りですね。

マグネシウムに効果がないとは思いませんが、つけおき+半分の洗剤で洗濯しても汚れがそこそこ落ちてしまうのならば、よっぽどずば抜けた付加価値(洗浄効率、除菌、臭い抑制、衣類へのダメージ軽減、再汚染のしにくさ、環境問題の改善等)がない限り、マネタイズが難しそうですね。市場は界面活性剤レベルの効果で満足しているのが現状ですし……。

 

まとめ:学んだこと

  • お湯で洗濯すると汚れが落ちやすい
  • 洗濯機に入れて攪拌したら汚れは落ちやすくなる(機械力
  • 洗剤は適量で(浴比が高いと摩擦がなくなり汚れが落ちにくい)
  • つけおき」しておくと、洗剤の量が少なくても汚れが落ちやすい
  • 部屋干し洗剤には酵素が入っているとよさそう
  • 界面活性剤は洗浄効率の低い方法だが衣類にダメージを与えにくい
  • 弱アルカリ液に油汚れ・皮脂汚れ・たんぱく質汚れを落とす作用はあるが、溶解型洗浄なので、汚れの再付着に気を付けたほうがよさそう

 

ひょんなことから好奇心に火が付き、洗浄の共通認識を知ることができました。

どれも洗濯に詳しい方であれば「当たり前」のことかもしれませんが、四苦八苦して得た知識によって解像度が上がった状態なら、洗濯はもはや単なる家事ではなくなります。

しばらくは洗濯を化学の実験さながらに楽しめそうです。

 

参考

*1:水の科学「ものを溶かす天才「水」」 水大事典 サントリーのエコ活(https://www.suntory.co.jp/eco/teigen/jiten/science/02/

*2:日本石鹸洗剤工業会 石けん洗剤知識(https://jsda.org/w/03_shiki/osentakunokagaku_2.html

*3:洗浄における界面活性剤のはたらき - 石鹸百科(https://www.live-science.com/honkan/theory/surfac05.html#body

*4:石けん百貨 : 会社概要(https://www.live-science.co.jp/store/php/shop/s_show_html3-company.html?_ga=2.189953131.1971937851.1622467684-1309072813.1622467684

*5:洗浄の科学 : 洗浄と洗浄剤(2001年)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/7/1_773/_pdf/-char/ja

*6:洗浄のメカニズム(2008年)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/60/2/60_2_85/_pdf

*7:衣料用洗剤の洗浄性能(2008年)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/8/11/8_487/_article/-char/ja/

*8:日常生活における洗濯衣料の部屋干し臭とその抑制(2005年)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/36/2/36_2_82/_pdf

*9:アルカリ電解水を用いた新規つけおき洗浄システムに関する研究(2020年)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/7/1_773/_pdf/-char/ja

『洗たくマグちゃん』の措置命令についての思索

私は使ってませんが、洗たくマグちゃんは洗濯洗剤を不要とするユニークな商品として一部界隈で話題でした。

肌が弱い方にとって嬉しい商品だったでしょうし、環境問題に関心がある方からの支持を集めていました。

一方で、皮膚の症状がひどくなる(因果は不明)、効果を感じられないといった問題も、小さいながら散見される商品ではありました。

前提

株式会社宮本製作所に対する景品表示法に基づく措置命令について | 消費者庁

2021年04月27日、消費者庁は宮本製作所が製造する『洗たくマグちゃん』シリーズに係る表示について、優良誤認が認められたことから、措置命令を行いました。

具体的には、『洗たくマグちゃん』で洗濯すれば、洗剤と同じくらいの洗浄力・部屋干し臭いの軽減・99%以上の除菌が実現できるかのように表示をしていたのですが、それを示す合理的根拠が認められなかったということです。

 

共同通信社の「結果に根拠なし」の根拠が弱い

www.nikkei.com

まず興味深いなと思ったのは、多くの方の目に留まったであろう日本経済新聞(共同通信社)の記事に、誤情報が含まれている可能性がある点です。

1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2791W0X20C21A4000000/

 という表現に対し、NPO法人 食品と暮らしの安全基金

2014年に、家庭の洗濯機でマグちゃんだけで洗濯する幾重もの実証試験をスタッフが行いました。
http://tabemono.info/report/report_23.html

 として訂正要求 *1 しています。

ビーカー云々に言及しているのは、共同通信社以外では見ないですね。探してみましたが、どこからの情報なのかは不明でした。

 

なぜ「合理的な根拠がない」と判断されたのか

根拠となる資料の基準については「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」で運用方針が明記 *2 されています。

このガイドラインに準ずるなら、スタッフや30人のモニターだけで試したという根拠は不十分だという決定は妥当に思われます。第三者機関の調査があるとしても、無為にしたとは考えにくいほどガチガチのガイドラインです。

 

洗剤メーカーが圧力をかけた説

Twitterでは「洗剤メーカーからの圧力か…!」「本当にいいものは潰される…」という説が多く見られました。

しかし、裁判でも用いられた上記ガイドラインに準ずる以上、メーカーから脅されようが金を積まれようがどうしようもありません。

しかも、消費者庁は措置命令を出す際に「不服があれば審査請求をしていいですよ」とわざわざ明記しています *3

また、コロナ禍で洗濯洗剤の需要が高まってきているチャンスの時期 *4 に、たかが競合の1つがシェアを伸ばしただけで「相手を潰さなければ」という非生産的な発想に至るのも考えにくいかなと思います。

仮に洗剤メーカーからの圧力が<隠された事実>だとして、宮本製作所が粛々と措置を受け入れて実証実験に励んでいる *5 のは不可解です。

このことからも、「洗剤メーカーからの圧力説」は、完全否定はできないものの、あまり的を射た考察ではありません。

直感的な理由であれ理論的な理由であれ、心から洗たくマグちゃんを応援したいなら、販売元が何をどのように頑張っているのかを直視し、真に相手のためになる応援をするほうがずっと素敵です。

 

洗たくマグちゃんが反発を受ける理由はなんだろう

反発があるのは、『洗たくマグちゃん』に効果がないと信じているからではなさそうです。洗たくマグちゃんの効果は、少なくとも2021年5月の段階では否定されていないので、信じる・信じないはともかく「デマだ!」と大っぴらに主張するのはためらわれます。金属石鹸そのものは別段珍しくもないですし(洗浄用じゃないけど…)。

それよりも、マグちゃんを応援しているファンが情報を鵜呑みにしやすい傾向にあることから、商品ではなくファンに対する反発が起きているのが大きな原因かなと感じています。

もし宮本製作所が声明通りの前向きさで「洗剤要らずの洗濯」と向き合うのであれば、たとえマグネシウム洗濯に効果がなかったとしても、おそらく別のアプローチで商品を開発するでしょう。これは洗たくマグちゃん賛成派・否定派の双方にとって喜ばしい話です。

 

合理的根拠が用意できればハッピーエンド

消費者庁は優良誤認を指摘しただけで、効果を否定したわけではありません。今のところ「洗たくマグちゃんに洗浄効果の根拠はないが、今後の実証実験の結果によって覆る可能性はある」という状況です。

コンセプトがよい商品なので、合理的根拠を提示できるようになるといいですね。うまくいけば、これが販売促進のチャンスに転じるかもしれませんし。

 

追記①:マグネシウム洗濯は「ウソ」なのか?

president.jp

 

この記事は、洗たくマグちゃん否定派にとっては持論を強化する強い主張であり、大いに興奮を煽る記事であるというのは想像に難くありません。

ただ、この記事も洗たくマグちゃんと同様に「効果がない」と批判する根拠に乏しいと感じるため、完全には信用できませんでした。

 

1.反証としては弱いかも

科学哲学者のカール・ポパーは、科学理論について『実験(客観的データ)によって反証できなければならない』と定義しました。

つまり、「洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない」とか「ウソだった」と"科学的に"反証するなら、マグネシウムやアルカリ性の基礎知識を持ち出すのではなくて、相応の実験・観察を行い、根拠を提示する必要があるということです。

コレ再現できないんだけど!という理由で反証をするわけですね。

消費者庁が「効果がない」と断言しなかったのは、反証できるだけの科学的根拠を持たなかったからではないかと思います。

 

 記事では「"科学的な用語"に騙されてはならない」というまっとうな警句を残しています。自分が反証される可能性を認めるのが科学だという定義に立ち返るなら、もちろん本人も警句の対象になります。

しかし、記事を読む限りでは引用に終始しており、自身では実験や観察をしていません。

 PRESIDENTは科学誌じゃないので、反証するなら実験するべきだ!とまではさすがに思いませんが、引用元は「マグネシウムを水につけるとどのようにpHが変化するか」を実験していて、強アルカリ=洗浄力が高いという前提で進められています。

おそらく、濃度の高いアルカリ剤による分離型洗浄を前提にしているのかもしれません。

界面活性剤(分離型洗浄)と比べるのであれば妥当に思われますし、分離型洗浄をするなら強アルカリにする必要がある、という点は私も納得しているところです。

ですが、それだと肝心の「(マグネシウムを用いた)弱アルカリ性の液で溶解型洗浄をしたらどれくらい汚れが落ちるのか?」という部分は実験・観察していないわけで、そこがもどかしいですね。

人体の皮脂汚れは,その油成分中の1/4~1/3が脂肪酸であり,この脂肪酸が弱アルカリ液で石けんに変化して溶解するとともに,生じた石けんが洗浄に寄与するので,炭酸水素ナトリウムなどの弱アルカリ液のみでも比較的高い洗浄性を示す

洗浄のメカニズム(2008年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/60/2/60_2_85/_pdf

(太字は追加しました)

と書いてあったので、マグネシウムで作り上げた弱アルカリ液がどれくらいの洗浄性を示すのか、水温や機械力がどれくらい影響するのか、汚れの再付着はしやすいのかといった情報が知りたかった……。

 

強い反証をするのに引用で済ませるスタンスと、引用元がマグネシウムの洗浄力について検証していない点から、どちらかというとこの記事も非科学的に見えます。
(といっても、科学を推す割にはエビデンスの使い方が雑だな…という個人の感覚にすぎません)

 

これは私の主観ですが、相手がいちおう実験をしたうえで効果を立証しようとしたのに、批判する側が消費者庁の発表を笠に着て引用で済ませるのはフェアじゃないな、とは思います。

 

2.中立の立場ではない

言うまでもないことかもしれませんが、この記事は書籍紹介の一環であり、中立的な目線で書かれたものではありません。

マグネシウム洗濯に否定的な方々は、記事内で取り上げられている書籍『暮らしのなかのニセ科学』に興味を持ちやすい、いわば親和性の高いユーザーということです。

この記事が、訴求したい商材と親和性の高い(洗たくマグちゃんに不信感を抱く)ユーザーの持論をより強固にするような、読んでいて「よくぞ言ってくれました!!」と感じる構成にするのは、商業用の文章として当然です。

 

この記事は、ざっくりと以下の構成で進みます。

  • 事実を述べる
  • 詳細な解説をして「そうなんだ」と納得させる
  • 「やっぱり!」「そうだと思った!」と共感させる
  • 「あなたは正しいですよ」という安心感を与える
  • ニセ科学に警鐘を鳴らす書籍を読んでニセ科学を見抜くセンスを磨こうと結ぶ

ユーザーのためになる情報を開示しつつ、訴求へとつなげる導線をしっかりと敷いています。Webライティングのお手本のようですね。無駄がなく、善意を感じる堅実な文章です。

プロとしててセールスライティングに携わる者のチェックが入っているでしょうし、筆者に出版経験があるので、表現力・構成力という観点ではとても参考になります

 

この記事には確かに一理あって、科学的な事実も含まれています。

だからこそ、真実の中にひとつ嘘を混ぜると真偽判定が難しくなるように、この記事もどこまで信じていいのか分からず混乱してしまうのは否めません。

「もうちょっとフェアに反証できなかったの?」という不信感はちょっとだけありますが、本の販促記事はPV数が大切だし…こんな親和性の高い話題を逃す手はないよね…という気持ちもよく分かります。ままならないものですね……。

 

手間はかかりますが、双方の情報を見比べて自分なりの結論を導く必要がありそうです(もっとも、これはすべての二次情報に言えることですね)

 

追記②:

考えました。

どうやって洗濯したら汚れが落ちるんだろう?

 

参考

*1:食品と暮らしの安全 - 「洗たくマグちゃん」報道について(http://tabemono.info/report/report_23.html

*2:『不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―』 第3 「合理的な根拠」の判断基準(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_34.pdf

*3:4 法律に基づく教示|不当景品類及び不当表示防止法第7条第1項の規定に基づく措置命令(https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_210427_01.pdf

*4:市場調査レポート: 洗濯洗剤の世界市場 (製品別・用途別・地域別):市場シェア・規模・動向の分析と将来予測 (2021年~2028年)(https://www.gii.co.jp/report/pola986442-laundry-detergent-market-share-size-trends.html

*5:「洗たくマグちゃん」の新パッケージにつきまして - 株式会社宮本製作所(https://www.miyamotoss.co.jp/news/?p=2088

読書と執筆の心構えを見直す『読書について 他二篇』

読書に慣れてきたら「本の読み方」にも興味が湧いてくる。私も例に漏れず何冊か手に取ったが、読書論の中でもとりわけ気に入って何度も読み返した1冊がある。

それが本書『読書について 他二篇』だ。

『読書について 他二篇』@ショーペンハウエル

硬めの訳:岩波文庫

柔らかめの訳:光文社古典新訳文庫

ページ数が少ないので読み返すのが楽だから、という理由もある。他二篇と合わせても薄い本だ。

本書は、以下3篇からなる。

  •  思索(光文社古典新訳文庫では「自分の頭で考える」)
  •  著述と文体について
  •  読書について

どう読むべきか?―読書について

本稿の結論は、「古くから読まれている本(=古典)を読もう」に集約される。これは「著述と文体について」でも具体的に述べられている。

できれば原著者、そのテーマの創設者・発見者の書いたものを読みなさい。少なくともその分野で高い評価を得た大家の本を読みなさい。その内容を抜き書きした解説書を買うよりも、そのもとの本を、古書を買いなさい。誰かが発見したことに新しく付け加えるのがたやすいことは、いうまでもない。

「読書とは、他人にモノを考えてもらうことなのでは?」を起点としており、結論よりもその過程に学びが散りばめられている興味深い章でもある。

本稿は、流行に飛びつく、ある意味で勤勉な読書家たちに業を煮やして書きなぐった…そんな様子がありありと想像できるくらい感情がこもっている、ように見える(だが「著述と文体について」ほどではない)。

ショーペンハウエルらしい言葉の使い方がそう感じさせるのかもしれない。こういう文体は嫌いではないが、いろんな主張が飛び交い、落とし込むのにいくらか時間がかかる。

文中でショーペンハウエルが説くのは、時の試練に耐えた「良書」を読めというだけではない。読書の在り方として、ショーペンハウエルは以下のように述べている。

  •  質のいいものを多くインプットする(悪書を読んでいる暇はない)
  •  部分ではなく全体を把握すること(理解を深めるため本は立て続けに2度読むのがいい)
  •  自分で考えることを怠ってはならない(読むことに集中するとモノを考える力を失っていく)

我流ながら抽出してみると、読書論でこそ目新しいかもしれないが、現代のビジネス書を開けば盛んに書かれているアドバイスの一部という感じがする。

ただ、「またそれか」的なアドバイスこそ、心して実践したほうがいいのも確かだ。医師が真っ先に基本の治療を勧めるのは、一定の効果があって比較的安全な治療は隠しておくことなどできず、こぞって試された末に標準化すると知っているからだろう。また、最良の選択肢が「最先端のもの」とは限らないことも、医師は十分に理解している。

アドバイスもまた、効果的なものは支持され、各々がエッセンスを加えつつも標準化されて受け継がれていく性質のものだ。目新しいテクニックが本人にとって最良の選択になるとは限らない。

とはいえ、「近道(楽で劇的な効果がある方法)が知りたい」と思ってしまうのが人間の性でもある。特別感と手軽さを求めるこの性こそ、思考や学びを妨げる要因の一つなのかもしれない。本書を読み返してそんなことを感じた。

どう考えるべきか?――思索(自分の頭で考える)

紙の本ではなく、世界という書物を読むべし。これがショーペンハウエルの主張だろうと思う。

自分の考えを持ちたくなければ、その絶対確実な方法は、一分でも空き時間ができたら、すぐさま本を手に取ることだ。

ただ、読書をするのが悪いとは一言も言っていない。読書は、自分の思索が思うように進まないときにやるべきだ、という主張だ。

自分の頭で考えられないとき、あるいは自説を補強する際に本を開くことを推奨している。

「本を読む前に、自分なりに学びたいことや持論を用意する」ことを推奨する読書論もあるが、これはショーペンハウエルの主張を汲んでいるのかもしれない。

ショーペンハウエルは、このことを土地勘に例えている。

本を読むことに人生を費やした人は、たくさんの旅行案内書を眺めて土地に詳しくなった人だが、人生を考えることに費やした人は、その土地に実際に住んでいたことがある人のようなものだという。

しかし、ただの経験も読書と同じようなものであり、あくまでも自分で考え、決断することが大切だと述べている。

どう書くべきか?―著述と文体について

書評ではあまりフォーカスを当てられないが、『著述と文体について』も面白い。

文章を書くものとしてどうあるべきかという点にフォーカスを当てている…のだが、ドイツ語がいかに落ちぶれてしまったか、落ちぶれたドイツ語を使うものをどう思っているのか滔々と述べており、ショーペンハウエルがここでもっとも怒りをあらわにしているのが伺える。

本稿では延々と正しいドイツ語について書かれるが、ドイツ語に明るくない日本人にとっても共感できそうな部分を引用する。

その他の者は、書物について、他人の言説について考えをめぐらすだけだ。つまり彼らは考えるために、他人の既存の思想から、より自分に近しく強い刺激を必要とする。よそから与えられた思想がかれらのもっとも身近なテーマになる。

これを読んでしまうと、書評を書くことにためらいを覚える。

本書には具体例こそ載っていないが、「誰かが発見したことに新しく付け加えるのがたやすいことは、いうまでもない」とも書かれているように、「書評を書く」という行為も、ショーペンハウエルに言わせれば、よそから与えられた思想でしかものを考えていないということになるはずだ。

本の要約や感想を語るのではなく、本が持つテーマを語るほうがより厳しく、読むに値する思索となるだろう。

ルソーは『新エロイーズ』序文に「名誉心ある者なら、自分が書いた文章の下に署名する」と書いている。

この逆も言える。すなわち「自分が書いた文書の下に署名しないのは名誉心なきものだ」これは攻撃的文書におおいにあてはまり、たいていの批評がそうだ。

だからリーマーが『ゲーテにまつわる報告』で言ったことは正しい。

「面と向かって率直に発言する相手は、名誉心ある穏健な人物だ。そういう人物なら、お互いに理解し合えるし、うまく折り合い、和解することができる。これに対して、陰でこそこそ言う人間は、臆病な卑劣漢で、自分の判断を公言する勇気すらない。自分がどう考えたかはどうでもよく、匿名のまま見とがめられずに、うっぷんを晴らし、ほくそ笑むことだけが大事なのだ」

読書について 光文社古典新訳文庫

匿名であることを、「名誉心のかけらもない」と断定している。

気軽に発信できるようになった現代とショーペンハウエルが生きた時代では「主張」の考えが異なるが、人間の性質はほとんど変わっていない。

SNSやブログなど、匿名で発言することに慣れた現代人に刺さる言葉だ。

SNSやブログでネガティブな発言をするとき、自分自身にも同じような言葉が浴びせられることを覚悟して――自分の名誉をかけて送信しているだろうか?

ほんのちょっとは相手の気持ちになって発言に気を使っている、くらいの人は大勢いる。しかし、自分の名誉をかけて発言をするような賢く誇り高い人物が、受け手が圧倒的有利で対等な議論すらできないインターネットに来るとは到底思えない。

自分の発言に責任を取るという姿勢は、すでに多くの現代人から失われている。

それは悪いことばかりではないが、良いことだとも言えない。

3部に渡って読むこと・書くこと・考えることを説く本書は、自身の読書や執筆のあり方について、今一度振り返る機会をくれる。

課題を見極めて生産性を高める『イシューからはじめよ』

些末な問題を取り上げる会議や願望まみれの会議に引っ張り出された上司が、苦笑いしながらそれとなく言う言葉。あるいは新入社員にメンターが勧める本。

たいていそれは『イシューからはじめよ』だ。

 

『イシューからはじめよ』は問題解決法を説く本の中でも実用的で、数多あるビジネス書の中でもとりわけ高い評価を受けている。

読みやすい文体だが、一読で本質を知り尽くすためには経験が必須だ。この先何らかの課題にぶち当たったとき、私は救いを求めて本書を手に取るかもしれない。

 

一読では済まない学びが、この本には詰まっている。何度でも読み返して咀嚼したい一冊だ。

犬の道に入ってはならない

大量の仕事を、時間(労働量)でむりやり解決することを「犬の道」と呼ぶ。

本書で一貫して見られるのが、「犬の道」には踏み込むなというメッセージだ。

労働量で解決する方法――特に残業は、問題解決能力の不足を目に見える形で触れ回るようなもので、たとえ「犬の道」でどうにか成長できたとしても、大量の業務を『時間』でしか解決できない作業員が生まれるだけだ。

作業員は、『時間』を投資する根性論でしか後輩にものを教えることができない。

「犬の道」を選べば、リーダーとしての成長の芽も摘んでしまう、と本書では語っている。

なぜ「犬の道」と呼ぶに至ったのかは分からないが、何にでも興味を示しては何かを拾ってくる犬のように、ちっちゃな問題を見つけては片っ端から解こうとする人になってはならない。そう伝えたかったのではないかと私は解釈している。

犬の道は、課題は「解く」前に「見極める」ことが大切だと、端的に示す言葉でもある。

「バリューのある仕事」とは何か

『どういう仕事をしたら会社から評価されるのだろう。』

仕事をしていれば、一瞬くらいそう考えることがあるかもしれない。

評価をされればもっと面白い仕事ができそうだし、何より給料が上がる。

「バリューのある仕事」は、経験が浅いほど漠然とした希望という形で目の前に現れ、業務に追われるにつれて忘れてしまう概念のようにも思われる。

確かなのは、バリューの本質が分からなくては、本当の意味で『バリューのある仕事』を見つけるのは不可能という点だ。

“無駄な努力”をしつづけても咎められない会社は珍しくない。「努力は報われる」と信じるデメリットは、『時間の浪費でしかない無意味な努力』の存在を認められないことだ。

本書では、『努力をすれば報われる』をばっさりと切り捨てており、生産性を「どれだけのインプット(投下した労力・時間)で、どれだけのアウトプット(成果)を生み出せたか」と定義している。

とはいえ、本書の趣旨は、小さな会社でささやかな成功を掴むような鶏口牛後の話ではない。

丁寧な仕事・質の高い仕事をするのはもちろん大切だが、それに丸1日も費やされたら、それはバリューのある仕事とは言えない。

作業を早くして生産性を高めるだけでも、バリューのある仕事とは言えない。

そもそも、それを作る必要性はあるのか?と問いかける必要があるのだ。

本当に今やるべきことにフォーカスを当てた課題設定をして、明確な解答を用意できている。本書では、これこそ「バリューのある仕事」だと本書では伝えている。

イシューの度合い」と「イシューに対する解答の質」。この2軸がバリューの本質だ。

まとめると、以下のようになる。(P.32,図6)

バリューのある仕事=イシュー度✕解の質

  • イシュー度 = 問題の質。この問題に答えを出す必要性の高さ
  • 解の質 = イシューに対して、どこまで明確に答えを出せているか

「小さな成功」からはじめる

本書の本質的な部分を一読で理解するのは難しい。

一度読んだ程度でイシューを見抜いて組織を変えることは、企業が抱える火急の問題を大量に解決してきた経験でもなければ不可能だろう。

せめて、普段から振り回されているささやかなタスクに取り組む際に、「それは、本当にイシューなのか?」という小さな疑問を投げかける癖をつけるのもいいかもしれない。

終わらない仕事を前に『悩む』のをやめて、『考える』にシフトすることから始める。

「一体何がイシューなのか?」を問いかけ、答えに詰まったら本書を読む。また考える。そうやって思考をどんどん深めていく。

問題解決を迫られたら、ぜひ本書を使い倒そうと思う。

knopsを使ってみた~ボリュームコントロール耳栓のレビュー~

knopsが入っている箱の写真

knops(ノップス)は、4段階のボリューム調整機能つき耳栓です。買って1週間ほど試してみたので、個人的な感想を書こうかなと思います。

knopsとは、カッコよくいうと「外界の音を4段階調整できるダイヤル型ボリュームコントローラー」で、平たく言うと「アナログの耳栓」です。丸い部分は回転する仕組み。回すごとに0db→10db→20db→30dbの遮音レベルを発揮します。

0dbにもできるので、いちいち耳栓を抜かなくてもダイヤルを回しさえすれば周りの音を自在に拾えるわけです。ちなみにknopsには3つ種類があり、ダイヤルがつるつるのオリジナルタイプ・細かいデコボコ模様が入ったローレット加工金メッキ加工から選べます。色はホワイトブラックの2種類です。

 

knopsの箱を開けたときのようす

箱を開けたらこんな感じで収まっています。

遮音性について

消音機能はどちらかというと低め。MAXの減音レベルはライブ用耳栓と近いかなと思いました。全体的な音量を下げるイメージです。
バスや電車の走行音を完璧に消してくれるわけではないので、ノイズキャンセリング機能に慣れていると「なんか違う」「全然音が聞こえる」と感じるかも。

遮音するというよりは、「音を楽しむための耳栓」といったほうが正確かもしれません。だからMAXにしても音はそこそこ聞こえます。そもそも30dbってそんなに大きい音ではありませんからね。

音を塞ぐわけではなく、あくまでも音質を落とさず耳を保護するための耳栓という感じです。

でもこのknopsを買ってから、バスに乗るときやスーパーに行くときには重宝しています。イヤーマフに比べると遮音性は劣るんですが、イヤーマフより目立たないしスタイリッシュなのが嬉しいです。

装着感について

軽い装着感が嬉しいですね。普通のBluetoothイヤホンみたいです。

knopsを手に持っているようす

シリコン製・ウレタン製のイヤーピースがついてるのでお好みで。でも遮音性が高いのははシリコンのほうかもしれません。あと、シリコン製のほうが見た目もかわいいです(どうせ耳にはめて見えなくなるんですが…)。

個人的に感じたknopsのメリット

メリット1.デザインがカッコいい

耳にはめたときのデザインがかっこいいですね。おしゃれなBluetoothイヤホンって感じです。買い物でスーパーにイヤーマフしていくと目立ちすぎるんですが、これなら「イヤホンしてるんだな」で済みます。

メリット2.軽くて長時間つけられる

長時間といってもさすがに限度はありますが、1〜2時間くらいならつけっぱなしでもいけるかなと思います。耳を締め付けないぶん、イヤーマフよりは長く持ちそうです。

個人的に感じたknopsのデメリット

デメリット1.回すのに慣れがいるかも

耳につけたまま回すのはなかなか大変です。慣れるまでは耳にはめたままダイヤルを回すのが煩わしいと感じてしまうかも。慣れれば大したことはありません。

デメリット2.睡眠用にはならない

形状的に、睡眠には向きません。寝返りを打つと耳に食い込んで痛いです。外の雑音を軽減するときや、映画館・ライブ会場などで真価を発揮するなと思いました。

まとめ:聴覚過敏の普段使いにいいかも

knopsをつけているとある程度の雑音はカットできますし、音が耳に刺さりにくくなるので、聴覚過敏の普段使いにはいいかもしれないなあと思いました。knopsをつけていないときに比べると、つけたほうが断然音が刺さりにくいです。雑音の巣窟・スーパーに行くと違いを実感できるかもしれません。

ただ、音でパニックになってしまう人にとっては「遮音性が足りないかな」と感じるレベルだと思ったので、そういう方はイヤーマフ+耳栓のほうが無難でしょう。

私は大きな音が苦手なので、映画館やライブを純粋に楽しめなかったんですが、これをつければそこそこ楽しめそうな気がします。それこそがknopsの本来の使い方という気もしますが、耳を保護するスタイリッシュな耳栓がほしい!という方にはピッタリです。

貯金だけが目的なら家計簿はいらないかもしれない

家計簿を書こうとノートを開いている画像

だめだ、家計簿がまったく続かない…。お金がない…。
何十回と「家計簿」を試行錯誤してきて、ある時ふと思いつきました。

「そうだ、家計簿をつけるのはやめよう」。

私の生活をもっとも困難にするもの、それが刹那的な金銭感覚です。

お金が貯まらない。いまお金を使ったら後々困るかも…という危機管理能力がない。それなのに、家計簿を挫折し続けた回数は100をゆうに超えます。
簿記は知ってますし、他人の確定申告書や企業の決算書をつくった経験もあるので、人よりは「帳簿」に詳しい方じゃないかなあと思ってはいます。

でも、だから家計簿も続けられるか?というとそれはまったく別問題。知識だけでコントロールできればこれほど楽なことはないのですが…。

家計簿が続かない

お金が貯まらない。それどころか、お金が足りない

あれ?これ今月の交通費まで全部使ってしまったのでは…。

そんな状況にならないよう、心機一転してお金の管理方法を真剣に考えてみました。

そんな私が至った結論は「家計簿をつけない」です。

「貯金」はしたい、けど家計簿はつけたくない

私はとにかく貯金が苦手です。給料が入ったらいつの間にか全部使ってしまうか、足りないのでカードローンで補う始末。

固定費の支払いは引き落としなので、かろうじて滞納は防げているという状態。

 

そこで、私が取ったのが以下の対策でした。

  • 固定費は給料が入った瞬間に引き落とし用口座へ移す
  • 毎朝2,000円を財布に入れるシステム

固定費は給料が入った瞬間に引き落とし用口座へ移す

家賃、水道光熱費、保険、ローンといった絶対に滞納してはいけないものは、給料が入った瞬間に「引き落とし用口座」に移動させます。

完全に「ないもの」として扱うわけです。

こうすることでいちいち支払いに行く手間も省けますし、滞納も防げます。便利!

毎朝2,000円を財布に入れるシステム

いわばセルフおこづかい制です。1日2,000円を財布に入れて、2,000円でやりくりします。

やり方はかんたん。朝、財布に2,000円を入れるだけ。財布の中身は取り出さず、朝に2,000円を入れます。

要は、「むだ遣いしてもいいお金」が毎日2,000円入ってくる状態を作るわけです。

1日2,000円しか使わない生活を送れば自ずといくらか貯まるので、この方法を採用することにしました。

メリット1:逆算しなくていい

セルフおこづかい制の一番のメリットは、「財布の中身は全部使っていい」というところ。

例えば、1週間に1万円!というシステムだと、いろいろとやりくりしなければなりません。

「財布の中は全部使っていい」という方がよっぽど気楽で、続けやすいです。

なお、通販やAmazonで買ったら問答無用で同じ額を貯金箱に入れます。この制限を設けないと「カードだからセーフ!」って言いつつ爆買いしちゃいそうですし。

ちなみにこれ、夜に中身を全部貯金箱に入れてリセットし、毎日2,000円で生きるという方法もあります。ガッツリ貯めたい、無駄遣いをできるだけ減らしたい、1日2,000円使うと貯金に回すお金がなくなる…といった方は毎日リセットするのもおすすめです。

メリット2:財布からお金がなくならない

私はよく、「財布は持ってるけど、お金が入っていない!」と慌てることがあります。

毎朝のルーチンに”財布に2,000円を入れる”と書いておけば、私のように「お金がない!」と騒ぐこともなくなります。もっと早く気づけばよかった…。

メリット3:使わないとお金が溜まっていくので嬉しい

使わないとお金が貯まっていく、という貯金の楽しさをリアルタイムで味わえるのが個人的に好きです。

残金から逆算して「これを買うのはやめとこ…」というマイナスの考え方ではなくて、「我慢したら好きなものが買える!」と考えてお金をやりくりできます。

・固定費は給料が入った瞬間に別の口座へ移す

・毎朝1日2,000円を財布に入れる

・夜、あまったお金は取り出さない or すべて貯金箱へ

家計簿は「貯金ができるようになるツール」ではない

家計簿をはじめとする帳簿は、お金の問題を解決するための「対策を考える」ツールとして優秀です。

しかし、家計簿をつければ貯金ができるようになるわけではありません。

家計簿ではすべての金銭状況を把握できない

そもそもなぜ、帳簿には費用をすべて書かなければならないのでしょうか。

それは、のちのち収益と費用の差額(利益)を把握するためです。

企業会計の場合だと損益計算書(P/L)というものを使い、利益を5種類に分けて算出します。面倒です。

しかし、ほとんどの家計簿は使ったお金を計算するだけの仕様になっています。費用しか書かないんですね。給料を書かせる項目もないですし、純利益を書かせる項目もないので、本当の貯金額(実際、どれくらいのお金が手元に残っているのか)が分かりません。

いっそ貯金を「費用」としてあらかじめ引いちゃえば、少なくとも意図的に貯めたものは把握できますけど、費用の性格を考えると貯金という資産をとっておくために使うのは正確ではありません。

はっきりいうと、「家計簿」は、金銭管理の機能に欠けています。少なくとも、世に出回っている家計簿だけで家計状況をすべて把握するのはムリです。

家計簿は、使い方によっては「現金出納帳」という呼ばれ方もしますが、どちらにせよ帳簿というものは本来「決算書」をつくるためのもの。単体で使うものではありません。現金出納帳は、現金の流れを把握するのに便利だからと別に帳簿をつくっただけです。

だから、本気で家計の金銭管理をしたいなら、家計簿ならぬ家計決算書を作成する必要があります。

費用をすべて書くのは残高を知りたい場合だけ

帳簿というのは、それ単体では一部の機能しか使えません。家計簿の場合、使えるのは「費用の流れを知る」「費用の合計を知る」機能だけ。

費用を全部書くのは、現金の「残高」を正確に把握したいからです。

 

あれ?じゃあ、別に費用を全部書く必要はないのでは?

 

なので、私は「費用をすべて書く」ことはやめました。そもそも、費用をすべて書き出そうとして失敗し続けたわけですから。

もし家計簿をつける場合は、コンビニ、自販機、衝動買い…など、「むだ遣い」だけを見える化するのが良いかなと思います。

タスク管理の金字塔「GTD」を使いこなそう

脳をストレスフリーにするタスク管理術の金字塔「GTD」。

あらゆるタスク管理法を転々としてきた方も、初めてGTDを知る方も、ぜひ基本を押さえておきたい優秀なツールです。

実は私も最近知った考え方で、「なるほどなー」「これならヌケモレなくタスク管理できそう!」と感じたのでまとめてみました。

タスク管理の金字塔「GTD」

発案者による書籍の翻訳です。新装版もありますが、個人的にはこっちのほうが読みやすいですね。興味のある方はぜひ。

漫画でサクッと知りたい!という方はこれがおすすめ。今ならAmazon Unlimitedでも読めます。

 

GTDは、正確には「Getting Things Done(仕事を成し遂げる)」というタスク管理術です。

GTDは、基本的に以下の5ステップからなります。

  1. 気になることを1ヶ所に「収集
  2. それぞれ何をするべきかを明らかにする「処理
  3. 処理した結果を「整理
  4. 行動の選択肢を改めて「レビュー
  5. 選んだ行動を「実行

まず、「やるべきタスクやアイデア」を”すべて”記録して収集。仕事に限らずすべてのタスクやアイデアを集め、一つずつ整理します。整理したものの行動の選択肢をレビュー(再評価)し、精査した行動を実行します。

これで頭の中に眠っているタスクやアイデアをすべて覚えなくてもよくなりますし、「で、次に何をやるんだったっけ?」「あれもこれもやらなくちゃいけない…」という堂々巡りの思考に陥ることなく、自分のやるべきことに集中できるという仕組みです。

ただタスクを書きだすだけであれば、ToDoリストとそう変わらないという印象を持つかもしれません。しかし、このGTDというタスク管理術はToDoリストではカバーしきれなかった「小説を1冊書き上げる」という複雑かつ漠然としたタスクや、「歯磨き粉がなくなりそうだ、週末に買ってこなくちゃ」という未来の些細なタスクも管理することができます。

つまり、やるべきことだけではなく「やりかけのタスク」「やりたいけど今じゃないタスク」「アイデア」などをすべて管理できる方法というわけです。

一見するとシンプルですが、昔からライフハッカーたちがこぞって取り入れてきた方法だけに、効果は期待できます。正しく運用できさえすればきっと、やり残したタスクを後から思い出すとか、意図せずプロジェクトを諦めるなんてことは二度となくなる…かもしれません。

  • GTDの目的:なすべきことを記録し、頭の中のリソースを確保し、タスクをヌケモレなく完了させる
  • 収集、処理、整理、レビュー、実行の5つのステップからなる

用意するもの

  • 筆記用具
  • 紙の束やメモ帳
  • ファイル
  • カレンダー
  • ゴミ箱

とりあえずこれだけあればできます。まずは紙で運用してみて、慣れてきたら手帳やEvernoteなどのアプリなど、自分の使いやすいツールを選ぶといいかもしれませんね。

GTDのフロー

GTDのフロー

まずはフォルダをつくる

  • インボックス:アイデアとタスクが発生した時すぐに保存する
  • 次にやること:インボックスから救い上げた、すぐ取り掛かれそうなタスク
  • プロジェクト:達成のために複数の行動が必要なタスク
  • 連絡待ち:相手の反応待ちリスト。発生日を書いておくとなお良い
  • いつかやる/たぶんやる:いつやるかは分からないが、いつかはやりたいものを保管。
  • 備忘録:日付は決まっているが先の予定を記録しておく。単発リマインダー。
  • カレンダー:時間と場所が固定されており動かせない予定を入れる。

「収集」する

頭の中のアイデアやタスクをインボックスにすべて書きだす

やるべき仕事、覚えておくべきこと、やってる最中のこと、ふっと湧いて出たプロジェクトのアイデアなどなど…とにかく、すべてをいったん吐き出す場所が「インボックス」です。

インボックスにするツールは、ヒップスターPDA、メモ帳、手帳、ふせん、Evernoteなどのアプリ、iPhoneのメモ帳など、なんでも構いません。

頭の中で覚えているだけでは、あれもしなきゃ、これもしなきゃと思考がとっ散らかってしまい、結果的にうまくタスク処理ができません。インボックスは、すべきことを頭の中からすべて追い出し、これを記録し、整理できる状態にするための場所です。

ただし、頭の中のごちゃごちゃしたタスクをいつまでもインボックスに寝かせておくわけにはいきません。週に1回はインボックスを一つひとつ整理する時間を設け、完全に空っぽにする必要があります。

このことを、GTDでは「レビュー」と呼びます。レビューとは、リスト内のタスクを空っぽにする見直す進行させる保留するといういずれかのアクションを取ることを指します。

  • インボックスで、すべきタスクに関する雑然とした思考をすべて頭から追い出す
  • インボックスは、週1で見直して空にする

「処理」する

インボックスに入れたタスクを一つひとつ処理していきます。

「これは行動を起こすべきタスクか?」

インボックスの中に入っているタスクを見て、「行動を起こすべきタスクか?」と考えます。

まず、インボックスにあるリストのうち、上から順番に処理していきます。一度処理したタスクは、何があってもインボックスに戻してはいけません。

YES:行動を起こすべき

・2つ以上の行動が必要なものは「プロジェクト」とし、実行する前に計画を立てます。

 ⇒「プロジェクト・リスト」

・1つの行動で済むもののうち、人に任せられるものは人に任せてしまう。

 ⇒「連絡待ち」リストへ

・1つの行動で済むもののうち、自分がやるべきで、今すぐ取り掛かった方が良い場合。

 ⇒「次にやること」リストへ

・1つの行動で済むが、わりと先のタスクだ。別に今日やらなくてもいい。

 ⇒「カレンダー」へ。

・1つの行動で済むうえに2分以内に終わりそうな場合。

 ⇒リストには入れない。いますぐやろう!

GTDには「2分ルール」があります。リストに追加する時間を割くよりも片付けたほうが早いというタスクは、すぐに終わらせてしまいましょう。

NO:今行動を起こさなくてもいい
  • 資料やアイデアだ。手を加える必要はない。
     ⇒「資料」へ。
  • いつかは分からないが、いつかはやるだろう。たぶん。
     ⇒「いつかやる」リストへ。
  • ある特定の期日までは考える必要がない。
     ⇒「備忘録(リマインダー)」へ。
  • これは不要なタスクだ。残しておいても意味がない。
     ⇒「ゴミ箱」へ。そのタスクのことは忘れよう。
  • インボックスにあるタスクは、「行動をおこすべきかどうか」をまず考える
  • 行動すべき
    ⇒プロジェクト、連絡待ち、カレンダー、次にやることのいずれかに移す
    ⇒もし2分以内に終わるならすぐやる
  • 今は行動しなくてもいい
    ⇒資料、いつかやる、ゴミ箱のいずれかに移す
  • インボックスには絶対にタスクを戻さないこと

各リストの紹介は、以下の「整理」で行ないます。

「整理」する

GTDで使うリストは、大きく分けて5つあります。

インボックスにあるタスクは「処理」をすることで各リストへ振り分けられます。このリストを常に追いかけることで、モレなくタスクをこなしていきます。

「次にやること」リスト

次に取るべきアクションを決める

さまざまなタスクの、次に取るべきアクションを書き留めるリストです。

タスク(仕事)を終える方法はさまざまですが、最初にするべきアクションというのは必ず存在します。これを「次にやること」リストに入れることで、手持ちのタスクを進行させるのです。

 

「時間ができたときにやること」は状況に応じて分類する

書籍・ストレスフリーの管理術いわく、「次にやること」リストのタスクは状況に応じて分類すると良いそうです。たとえば、「オフィス」「自宅」といった場所の指定、あるいは「電話」「LINE」といった具合に。

そうすれば、その状況になったときまとめてタスクを片付けられます。パソコンを開いたときに@パソコンのリストをおいておけばついでに片付けられますし、カフェにいる状況で@カフェのリストをおいておけば、カフェで過ごす時間を有意義に過ごせるでしょう。

そこまで精力的に活動していない、次にやることリストの数が少ないという場合は分類しなくてもいいと思います。その辺は好みに合わせて取り入れるかどうか見極めてください。

一例を出します。まず、以下のようなプロジェクトがあったとします。

例1)仕事:A案件を進める

  • アポを取る@スマホ
  • プレゼン資料の作成@パソコン
  • 打ち合わせ(カレンダーへ)
  • 先方に確認メールをする@電車
  • 週次報告書の作成@自宅

例2)プライベート:みんなでボルダリングをする

  • どれくらいの人数で行くのか把握@スマホ
  • 場所を調べる@スマホ
  • 予約を入れる@スマホ
  • 当日にアラームをセット@自宅

これらを、@で細分化した「次にやること」リストへ振り分けていき、その状況が来たら上から順番に片付けていきます。

「プロジェクト」リスト

複雑なタスクを一つひとつ処理する

インボックスに吐き出した、プライベートや仕事での「気になること(GTD風にいうとオープン・ループ)」のうち、2回以上の行動が必要となる複雑なタスク「プロジェクト」と呼ばれます。

プロジェクトに関する「次にやること」は基本的に後回しにして、まずは1回で終わる単純なタスクから片付けていくのがルールです。

また、プロジェクトは常に追いかけ、定期的に(少なくとも週1で)見直す必要があります。

「連絡待ち」リスト

誰かからの連絡を待っていることを忘れずにいる

誰かに「次にやること」リストのタスクを任せるとき、プロジェクトにおいて先方のアクションを待たなければならない時があります(例えば上司からの承認、「旅行の計画を立てておくね」と息巻いていた友人からの連絡、クレジットカードの査定結果など)。

「連絡待ち」リストに入っているものは定期的にチェックし、任せていたタスクが完了したか、ちゃんとプロジェクトが動いているかなどを見直します。

もしタスクを他人に任せられるのであれば、自分の時間を増やすためにも積極的に他人に任せるべきだというのがGTDの考え方です。

普段、「これは他人に任せられるだろうか?」と考える機会はないかもしれませんが、じっくり考えてみると案外多くのタスクを人に任せられるものですし、そうでなくても「このタスクをこなすのは不可能だ、上司や身近な人に相談する余地がある」とか「別に急ぎではないし、後回しにしてもいいな」と気付くはずです。

「いつかやる」リスト

期限は決まっていないがやりたいこと

いつかはやりたいけれど、今はしなくてもいいようなタスクは「いつかやる」リストに入れます

(例えば「英語の勉強をする」とか「リフレッシュのために有休を取る」など)。

備忘録

いわゆる単発リマインダー

日付は決まっているものの、まだ先の予定を記録しておく場所です。

アナログでやる場合は、12ヶ月+31日分の計43つのファイルを用意して、未来のタスクを管理します。毎日、日付フォルダを開けてタスクをすべて片付け、空になった日付フォルダを次月のフォルダに入れていきます。

こういった類のタスクはカレンダーに書きがちですが、GTDにおいては「誰かと共有しており、時間・場所が決められている」予定以外はカレンダーに書きません。

「カレンダー」

締め切りが絶対の仕事/決まってしまった予定を入れる

カレンダーも、GTDになくてはならないツールです。ただし、カレンダーに入れる予定はある程度絞ります。

特にGTDでは、締め切りを厳守しなければならない仕事や、すでに時間や場所が決められおり絶対に動かせない約束に限り、カレンダーにいれるべきと勧めています。

これらの予定のことを、GTDではハード・ランドスケープと呼びます。意訳すると「誰かと共通かつ強固な予定」。

時間と場所がすでに定まっており、決して動かせないタスクのみカレンダーに追加します。

一人ですべて完結するタスクは、基本的にカレンダーには入りません。

そういったタスクは、カレンダーではなく「次にやること」リストに入れましょう。

資料

いつでも確認できる資料として保管する場所

資料として保存する場所です。いつでも手に取れる場所に置いておきましょう。

「見直し」をする

見直しをして随時更新しなければ、せっかく書きだしたタスクが処理されないままどんどん溜まってしまいます。

リストを見直して、やり残していることがあればすぐに着手します。

週次レビューをやろう

最低でも週に1回は「インデックス」「次にやること」「プロジェクト」「連絡待ち」リストを見返し、タスクの進捗をチェックする、必要・不要を判断する時間を取ります。そして、インボックスや各リストを新しい状態にします。

「実行」する

あとはできあがったリストをどんどん片付けていくだけです。

先延ばししやすい人はとにかく上から片付ける

先延ばししがちな人の場合、リストの中でも簡単なものから選んでしまい、後に大変なものが残りがち。先延ばしをしないためには、まずリストの上から順番に着手するというルールを課したほうが良いです。

週次レビューをしよう!

毎日見直す

  • 備忘録(リマインダー)

最低でも週1で見直す

  • インボックス
  • 次にやること
  • プロジェクト
  • 連絡待ち
  • いつかやる/たぶんやる
  • カレンダー

基本的に見直す必要はない

  • 資料

まとめ :タスクをすべて頭の外に出すとストレスが減る!

最終的に、GTDでやるべきことを管理するためには以下の3つのポイントを押さえることが大切です。

  • 「やるべきこと」を頭の外にある信頼できるシステムに預ける。
  • 「やるべきこと」に対して本当にしたいことを考え、終わらせるために何をするべきか考える。
  • 「やるべきこと」に対して取るべきアクションが決まったら信頼できるリマインダーに登録し、かつ定期的に“本当にこのアクションは必要か?”をレビューする。

運用していて思ったのは、とにかく「頭に煩わしいタスクがない状態は快適」ということ。

頭の中に漠然とあった思いつきも「あとどれだけ、何をすべきか」まで落とし込み、ゴールが見えたために着手するハードルがグッと下がりました。

GTDを完璧に回せるようになったら頭のリソースが温存できて、もっと面白いことに頭を使えそう…!と思わせてくれるツールですね。

とはいえ、いきなり全部を組み込むのは大変なので、まずは「インボックス」や「次にやるべきこと」「週次レビュー」から取り入れてみて、徐々にGTDのシステムに慣れていくのも良いかなと思います。